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東京地方裁判所 平成9年(特わ)1098号 判決

被告人

本店所在地

東京都文京区千石四丁目二二番六号

株式会社メディカル・アート

右代表者代表取締役

冨田礼司

本籍

東京都豊島区池袋二丁目三八番地

住居

東京都板橋区高島平九丁目二一番一-八〇五号高島平ハイツ

会社役員

鈴木弘二

昭和一二年二月三日生

出席検察官 藤原光秀

弁護人(私選) 被告人メディカル・アート 森仁至

被告人

鈴木弘二 石原達夫

主文

被告人株式会社メディカル・アートを罰金二八〇〇万円に処する。

被告人鈴木弘二を懲役一年二か月に処する。

被告人鈴木弘二に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

【犯罪事実】

被告人株式会社メディカル・アート(以下被告会社という)は、東京都文京区千石四丁目二二番六号(平成七年六月二一日以前は東京都中央区築地七丁目一八番二八号)に本店を置いて、医療臨床検査業務を目的とする資本金一〇〇〇万円(平成三年一一月三〇日以前は五〇〇万円)の株式会社であり、被告人鈴木弘二(以下被告人という)は、被告会社の実質的な経営者として、被告会社の業務全般を統括していたものである。

被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと考え、売上の一部を除外するなどして、所得を秘匿した上、次のとおり法人税を免れた。

第一  被告人は、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が一億三六二八万〇三〇三円であったにもかかわらず、同年五月二二日、東京都中央区新富二丁目六番一号京橋税務署において、京橋税務署長に対して、その所得金額が五三七万五七四〇円(別紙1の修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一四五万一九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一〇二八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額五〇二九万一九〇〇円と申告税額との差額四八八四万円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  被告人は、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が八七七五万四〇三五円であったにもかかわらず、同年五月二八日、前記京橋税務署において、京橋税務署長に対して、その所得金額が六〇〇万〇七四八円(別紙2の修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一六六万四五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一〇二八号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額三二一三万二三〇〇円と申告税額との差額三〇四六万七八〇〇円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  被告人は、平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が一億〇〇四四万七七三八円であったにもかかわらず、同年五月二七日、前記京橋税務署において、京橋税務署長に対して、その所得金額が二一五九万二一〇五円(別紙3の修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が七三二万四八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一〇二八号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額三六八九万五四〇〇円と申告税額との差額二九五七万〇六〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第四  被告人は、平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度において、被告会社の所得金額が六一七〇万七七三七円であったにもかかわらず、同年五月三〇日、前記京橋税務署において、京橋税務署長に対して、その所得金額が五一九万〇七七〇円(別紙4の修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一三六万七五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第一〇二八号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、不正の行為により、被告会社の前記事業年度における正規の法人税額二二二九万四四〇〇円と申告税額との差額二〇九二万六九〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れた。

【証拠】(括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

全事実について

一  被告人の公判供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(五通、乙三ないし七)

一  町屋眞紀雄の大蔵事務官に対する質問てん末書(二通、被告会社の不同意部分を除く)

冒頭の事実について

一  登記簿謄本

第一、第二、第三、第四の各事実について

一  売上高調査書、給料手当調査書、事務用品費調査書、諸税公課調査書、支払手数料調査書、交際接待費調査書、会議費調査書、燃料費調査書、雑費調査書、検診委託費調査書、受取利息調査書、交際費等の損金不算入額調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書

一  捜査報告書(二通、甲三九、四一)

第一、第二、第四の各事実について

一  消耗品費調査書

第一、第四の各事実について

一  家賃地代調査書

第一の事実について

一  修繕費調査書、その他損金調査書

一  法人税確定申告書一袋(平成九年押第一〇二八号の1)

第二、第三、第四の各事実について

一  雑給調査書、厚生費調査書、通信費調査書、荷造運搬費調査書、諸会費調査書、車輛費調査書、検体検査委託費調査書、委託検査料調査書、雑収入調査書、役員賞与損金不算入額調査書

第二の事実について

一  材料費調査書、外注加工費調査書

一  捜査報告書(甲一〇)

一  法人税確定申告書一袋(平成九年押第一〇二八号の2)

第三、第四の各事実について

一  システム料調査書

第三の事実について

一  捜査報告書(甲七)

一  法人税確定申告書一袋(平成九年押第一〇二八号の3)

第四の事実について

一  保険料調査書、水道光熱費調査書、印刷費調査書

一  捜査報告書(三通、甲三八、五一、五二)

一  法人税確定申告書(平成九年押第一〇二八号の4)

【法令の適用】(以下刑法は、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前のものを適用する。)

一  罰条

被告会社

各所為 いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

被告人

各所為 いずれも法人税法一五九条一項、二項

二  刑種の選択

被告人

各罪 いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情が重い第一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人 刑法二五条一項

【量刑の事情】

1  本件は、医療臨床検査業務等を目的とする被告会社の実質的な経営者であった被告人が、被告会社の業務に関して、売上を除外するなどして、四事業年度にわたり、合計一億二九八〇万五三〇〇円の法人税を免れたという事案であり、ほ脱税額は低額であるということはできず、正規の税額に対してほ脱税額が占める割合も、九〇パーセントを超えており、軽視できるものではない。

被告人は、被告会社の業務に関して、売上の一部を除外して、簿外の預金口座に入金し、あるいは、売上の一部が実体のない別会社に帰属するような経理処理を行って、被告会社の所得を分散させるなどして、被告会社の所得金額を過少に申告しており、その結果、被告会社は、被告人が、簿外の預金口座に所得を秘匿し、その一部を割引債として利殖をはかるなどしたことにより、総額で二億円ないし三億円の簿外資金を留保している。のみならず、被告人は、秘匿した被告会社の所得の一部を個人的な用途に費消するなどしているのであって、被告会社のため必要な資金を潤沢に確保しておくためだけから、本件各犯行に及んだものではないというべきである。

これらの事情に照らすと、被告人、被告会社の刑事責任は到底軽視できるものではない。

2  他方において、本件犯行は、被告人以外の者が関与することなく、被告人が単独で行ったものであるところ、被告人は、本件が発覚した後、被告会社において、責任を追及され、実質的な経営者の立場から離れること、被告会社の簿外資金から個人的に流用していた金員を返還することを求められた際、被告会社の株式の大半を保有していたことから、被告会社の代表者らに対して、返還すべき金員を減額させ、その代表者らに対して保有していた被告会社の株式を譲渡することなどによって、返還すべき金員の返済を行う旨の合意をとりつけ、さらに、被告会社の業務の一部を切り離して別会社として独立させ、自らその会社の代表者になっている。このような事情に照らすと、本件によって被告会社に留保された簿外資金の一部は、被告人を経由して、被告会社の社外に出ており、一旦社外に出た資金が被告会社に回復される余地もなくなっている。

被告会社は、これまで納付していなかった国税、地方税を納付するとともに、その附帯税等を分割して納付しており、相応の経済的な制裁を受けている上、被告人の手によって留保された資金の一部が社外に流出したことから、資金にゆとりがない状態にあるとうかがえ、このような状況にある被告会社に対して多額の罰金を課すのは妥当ではない。

また、被告人は、本件について反省の態度を示しており、すでに被告会社の実質的な経営者の地位を離れ、現在は、被告会社に対して迷惑を与えたことについて謝罪の意思を明らかにするなど、恭順の態度を示している上、今後は、税理士の指導を受けることとしており、その税理士も被告人が同様の行為を行わないように指導、監督する旨を申し出ているなど、被告会社、被告人にとって有利な事情もある。

そこで、これらの事情と総合して考慮し、被告会社を主文の罰金刑に処し、被告人を主文の懲役刑に処した上、被告人に対する懲役刑の執行を猶予することとした。

(裁判官 山口雅高)

別紙1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

修正損益計算書

〈省略〉

別紙5

ほ脱税額計算書

株式会社メディカル・アート

〈省略〉

株式会社メディカル・アート

〈省略〉

別紙6

ほ脱税額計算書

株式会社メディカル・アート

〈省略〉

株式会社メディカル・アート

〈省略〉

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